『安部公房とわたし』 山口果林

帯いわく「1993年1月、ノーベル賞候補の文学者は、女優の自宅で倒れ、還らぬ人となった。二人の愛は、なぜ秘められなければならなかったのか?」

安部公房は私の最も敬愛する作家ですが、彼の愛人問題は全然知りませんでした。
今回本屋でこの本を見つけ、二度見して「え?!」って言いました。
そんで手に取ってパラパラ読んだんだけど、その時点でページの間からそこはかとなく立ちのぼる不快感。。。うわーヤバそうだなー買いたくねーなーでもとりあえず読みたいなーと逡巡し、図書館で検索したけど無かったので、ファンとしてはどうしても素通りできず嫌々買いました(笑) 読みましたが、やはり読後感=嫌悪感、ですね。いえ安部公房に対してではなく、著者に対しての。安部公房に若い愛人が居るという問題は、私は知りませんでしたが当時は結構世間でも騒がれていて、公然の秘密だったようです。そして晩年癌になり闘病したことも、うすうす噂にはなっていたけど、本人も家族も現在に至るまで詳細は公表していないらしいです。そしてそれら全てを愛人であるこの人が全て発表しちゃったのがこの本なわけです…(*o*;) 安部公房の奥様はもう亡くなっていますが、安部公房死後、全集の編纂などに携わる中でもこれらの問題について一切触れてこなかった娘さんの心中やいかに…
手を出したのは安部公房の方だし、関係を継続するのは二人の意志だし、二人の関係自体についてはこの人を責める気はさらさらありませんが、ただ本人や家族がそれぞれの理由があって決して公表しなかった事実を、この人が今になって(何の必然性もない状況で)公表しちゃうっていうのは…完全な自己満足でありひとりよがりでしかないんじゃないかと思ってしまう…

内容は、まあ大したことはないです。この人と安部公房との出会いから安部公房が死ぬまでのことをただ書いてあるだけ。安部公房をタイトルにまで出してアピールしている割には、内容的にはほとんど著者本人の半生の羅列で、安部公房との関係も表面的な事実を書いているだけで、あまり「この二人は本当に唯一無二の関係で必要としあっていたんだなぁ」というような、奥行というか熱のようなものは感じられない。また安部公房の仕事や言動についても記述はあるんだけど、理解が浅い感じで「ほんとに理解してた?」と疑問に思う感じ。まあ安部公房とこの人とはそういう仕事とか思想とかで共鳴していたわけではなく、あくまでも男女の関係として惹かれあっていたわけだから、そこは理解はしなくてもいいんだと思うんだけど、だったら中途半端に分かったようなことを書かないでほしいと思ってしまいました。

帯の意味深な煽り「二人の愛は、なぜ秘められなければならなかったのか?」については、帯を読んだだけで「いや不倫関係だからでしょ」と思いましたが、本書を読み終えても特にそれ以上の答えは何もありませんでした。まあ、いろんな意味で出版社のあざとさと、それに乗せられちゃった著者の愚かさ、迷走する自己顕示欲の醜さが見え隠れする本ですね。あ、あとそれにつられて読んじゃう読者のマヌケさもね。。。(私ですね(泣))

好きな文学者は作品に心酔していればいいのであって、その私生活に興味を持つ必要は全く無い、という当たり前の事実を改めて深く学びました。安部公房先生すみませんでした。しかしそこを耐えきれずに覗いてしまうのがあれですよね、人間の業ってやつですよね(と急に問題を普遍的にすり替えて責任逃れ(笑))

 

この本は持ってたくないので図書館にでも寄付しますー