「坊ちゃん」 / 「贋作『坊ちゃん』殺人事件」

柳広司「贋作『坊ちゃん』殺人事件」を読むために、
折角なので真作(?!)の方も久しぶりに読みました。

「坊ちゃん」夏目漱石
相当久しぶりに読みましたが面白いッ!名作は色褪せず、ですね。
書き出しの「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」を読んだ瞬間に、二階から飛び降りたり指を切ったりする様子が見てきたように目に浮かびました(笑)チャキチャキの江戸っ子がまくし立てているまんまの文章にグイグイ引き込まれ、一気読み。
田舎ののんびりした(しかししたたかな)人たちに翻弄されイライラする坊ちゃんが、随所で見せる鋭いツッコミ、容赦ない毒舌が最高。ゲラゲラ笑いながら読みました。

「贋作『坊ちゃん』殺人事件」柳広司
続けてこれを読み出すと、全く違和感なく続編のように読めます。
話は坊ちゃんが教師を辞め東京に戻ってきたところから。
たまたま山嵐(数学教師)と再会した坊ちゃんは、二人が東京へ戻った後、現地で赤シャツ(教頭)が自殺したと聞かされる。しかしその自殺には事件の匂いが…ということで、山嵐と二人で四国へ舞い戻り、調べていくと衝撃の事実が・・・!!って感じ。
文体・言葉遣い・セリフなど、見事に「坊ちゃん」を踏襲しているのもスゴイんだけど、もっとすごいのは内容。事件の謎を解くために、二人が居た当時のこと(つまり「坊ちゃん」に書かれていた内容)について詳しく調べていくんだけど、その際に元ネタ「坊ちゃん」で読者が理解していた内容が次々と覆されていきます。「坊ちゃん」で何の疑問もなく読んでいた箇所の矛盾や隙を突き、そこから「真実」をあぶりだすのですが、それがいちいち説得力があって思わず「そうかそうだったのか!」と叫ばされます(笑)だってあれですよ?有名なあの生徒たちがイナゴを坊ちゃんの布団に入れたり、上の部屋でドスンドスン暴れたりした上に、問い詰めても「何も知らんぞな、もし」とか言って坊ちゃんを激怒させた事件も、この本では「じつは生徒達は本当に何もしていなかった」という「真相」が判明しますからね。すごいでしょ?まあ最後は弱いというか、あっけないというか、無理やりな感じは否めませんでしたが、全体としてはとても面白かったです。
細かい部分を楽しむためにも、これの前に元の「坊ちゃん」を読むことをお勧めします。ただ問題は、これを読んだ後はまた元の「坊ちゃん」が読みたくなりますので(色々確認したくて)、結果お前はいつまで坊ちゃん読んでんだ!状態になることですね(笑)

シートン(探偵)動物記」もそうだったけど、元の作品を損なわず忠実にその世界を再現し、その登場人物をイキイキと描く力と、その中で魅力的なお話を紡ぐ才能、この二本柱により作りだされる物語はいろんな意味で楽しめます。柳広司スゴイっす。