世相講談」(上)(中)(下) 山口瞳

向田邦子が彼の著作の中で唯一認めたという世相講談、やっと読みました。
タクシー運転手・バスガイド・ストリッパー・とび職・質屋…さまざまな職業の人を主人公に昭和の世相を描き出す力作短編集です。
文体や書き方など章ごとに工夫が凝らされていて、それぞれの職業に生きる人々が実にリアルにイキイキと頭の中に立ち上がり、動き出します。
前述の向田邦子は庶民の生活をリアルに描いて一世を風靡した脚本家でしたし、ノンフィクション作家・ルポライター沢木耕太郎も教科書として何度も読んでいるとか言われており、読んでみるとそのリアリティ・迫力に瞠目し、これらの評価に深く納得します。

私は山口瞳大好きですが、普段主に随筆を読んでいますので、彼のこういった「自分以外の人について書いたもの」は新鮮でした。山口瞳自身が作中に登場し、その人と関わり、話を聞き、理解していくという過程が描かれているものもあり、またそうでないものもありますが、いずれにしても彼らについて思いを巡らし、人ごととは思えないと泣き笑いする山口瞳の温かい視線が全編を通して感じられ、しみじみと感慨深く、胸に響きます。
また、随所に山口瞳自身について書かれている部分も多々あり、友人との交流や病気について、家族についてなど普段読む随筆などとはまた違った角度から描かれるそれらもとても興味深く、面白かったです。

すでに今の時代とは隔世の感を禁じえず、さらにこれからますます隔たりは大きくなっていってしまうかもしれませんが、きっといつの時代にもこれに感動し、この時代の市井の人々の暮らしに思いを馳せてくれる人は居ると思うので、連綿と後世に受け継がれていくべき、貴重な作品だと思いました。

ずっと家に置いて、思い出したように一編だけ読んだりしたい本ですが、
いかんせん…かさばりますね。以前は文庫でも出ていたようですが絶版となっており、今は分厚い単行本3冊しか手に入りません。。。
まあ読みたくなったらまた図書館行けばいいんだけど…悩むなぁ…