落語睦会 香水のゼントルマン @ 国立演芸場

口上
瀧川鯉丸「かぼちゃや」
柳家喜多八明烏
仲入り
瀧川鯉昇「日和違い」
入船亭扇遊「一分茶番」

開口一番は誰かな、と上がっていく緞帳をのんびり眺めていたら、ビシッと黒紋付で決めた御三方が低頭で登場し仰天。なんと寝耳に水の口上!!満場の拍手の中顔を上げ、まず喜多八さんが話し出したんだけど「えー…なんだっけ…」とのっけからグダグダw どうやらこの興行をずっと取り仕切っていた担当者が独立&この興行を新会社で引き継いだということで、三人でその方への感謝とお祝いをこめて口上をやろうやろう!と盛り上がったらしい。んだけど三人であっちこっち脱線しながら言いたいこと言ってるので、それが分かるのにも時間がかかり、でも場内はそんな三人のいい加減な掛け合い口上に大喜び。最後三本締!となったはいいけど、誰が音頭を執るかでまた一悶着あり、「じゃーんけーん!」「え、最初はグー?最初はグー?」とかほんとにもうw あー面白かった。

待ってましたの喜多八さん「今日はおめでたい席と言うことで華やかな噺を」と始まったのは明烏ッッッ!!堅物の息子に遊びを教えてやって欲しいと町の遊び人に頼んできたという父親の述懐が始まった瞬間、キャー喜多八さんの明烏初めてッッ!!と内心大興奮。お稲荷さんのお参りだと騙されて吉原へ連れて行かれた若旦那、途中で真相に気づき泣いて帰ろうとするのをなだめ、すかし、なんとか花魁の部屋に押し込めちゃうというこの噺は、なんと言っても八代目桂文楽の十八番として有名ですが、それに比べると喜多八さんのは喜怒哀楽がかなり激しいw 吉原と気づいた若旦那が帰りたいと泣き、遊び人がイライラして嫌味を言うシーンは、文楽版では終始メソメソvsブツクサという感じでしたが、喜多八さんのはもう若旦那は「うわーっ!!」と手放しで号泣しちゃうし、遊び人は「ぅおいってめぇいい加減にしろよっ!!」と完全にキレちゃうしw 翌朝、花魁にフラれた遊び人が甘納豆食べ食べ若旦那の部屋に様子を見に行くシーンも、文楽版が美味しそうな甘納豆とあいまってどこかのんびりとした雰囲気だったのに対し、喜多八さんの遊び人は若旦那のノロケを聴いているうちにだんだん目がすわってきて、ついに甘納豆を放り捨てて怒鳴り出すももう何言ってんのか分かんない!というありさまwww 派手で華やかで色っぽく、いつもの悪ぅい笑顔も一際映える素晴らしい一席でした。

鯉昇さんはいつものように訥々と…真顔で…適当トークw 鯉昇さんはいつも私のツボを的確にしかし予想外の角度から突いてくるので、用心していても不意打ちの爆笑に見舞われます。今回は口上で扇遊さんが「(鯉昇さん所属の)芸術協会の皆さんは口上で羽織を着てますよね?」と鯉昇さんにふったら「いえあれは着たくて着ているわけじゃなくて、羽織を楽屋には置いておけない事情があるのです」と真顔で語り出した「楽屋の羽織泥棒」の話がドツボで、今でも思い出すと笑っちゃう。そして鯉昇さんは「困惑する人」がほんとに秀逸なんだけど、今回の「日和違い」でも出先での天気を気にする男が出かける前に近所に天気を聞きまわってるうちに何をしてるんだか訳が分からなくなったり、結局どしゃぶりに遭って飛び込んだ米屋で米俵を着せられたり、もう終始困惑し通しの鯉昇パラダイスが最高でした。

トリは背筋の伸びた高座姿がいつも美しい扇遊師匠。この方が出るだけで、会場の空気がピシッと締まります。噺家が集まって芝居をする「鹿芝居」のマクラから、町の素人連が集まって芝居をする噺に入り、こここれはまさかの蛙茶番?!ふんどし締め忘れて舞台で大暴れする男を扇遊さんが熱演?!とドキドキしたら全然違いましたw ドタキャンで役に穴が空き、弱った世話役の番頭さんが見つけた代役は飯炊きの権助。渋る権助をお小遣いで買収しなんとか舞台に出てもらうも、台詞は間違うわ勝手に動くわ余計なことしゃべっちゃうわでもう舞台が滅茶苦茶!という噺。この権助、田舎では役者やってたと豪語するも、番頭さんが詳しく聞いてみるといちいちヒドイ。しかしそれを聞いても「お前しかいない!」とめげない番頭さんが一番スゴイw 舞台上での素人役者達の見せ場もたっぷり、台詞を唸ってみせる扇遊さんの渋い喉も聴けて、国立演芸場という美しい檜舞台の会場でお祝いの口上と共に始まった会の締めとして素晴らしい一席だったと思います。さすが。

予想もしてなかった口上も聴けてラッキーラッキー♪とはしゃぐ帰り道。ゲリラ豪雨的なものに襲われ心が折れかけましたが、それを上回る幸福感に満たされた一夜でした。この会やっぱり大好きだ―♪