『やわらかな棘』 朝比奈あすか 『奇貨』 松浦理英子

読んだことのない作家さん二発~♪

『やわらかな棘』朝比奈あすか

頑張って生きる女の子達を描く連作短編集。
みんな辛いことはある。乗り越えようとして挫折したりする。力んで変な方向に行ってしまったりもする。勢い余って周りを傷つけたりもする。そうやってもがくうちに、いつのまにか身体に絡まっていた糸がほぐれだし、少しずつ前へ進んでいく。傷ついた時、落ち込んだ時、「誰にも私の気持ちなんてわからないわ!」と人を遠ざけたりしがちですが(そしてそうやって一人で考える時間も絶対必要ではありますが)、結局は周りの人たちとどんな形ででも関わっていくことが、その人を真の意味で再生させてくれるものなのだなぁと改めて思いました。
1話目『まちあわせ』は彼氏にヒドイ振られ方をした女の子が復讐のために彼氏の会社宛に暴露メールを送信しようとするところから始まるお話ですが、私的には一番ヒドイというか怖いなぁと思ったのは彼氏のお母さんだったので、結果的にこんなタチの悪い女を「お義母さん」なんて呼ぶ羽目にならなくてよかったじゃん!と主人公を慰めたい(笑)
それぞれの短編の主人公がゆるく繋がっていますので、あ、この主人公はあの話で出てきたあの人か!とか気づくのも楽しい。女の子の気持ちを丁寧にすくいあげて書くのが上手な人だなぁと思いました。

『奇貨』松浦理英子

レズビアンの女子七島と、ゲイではないけど草食系の男性本田との同居生活のお話。
普段はさっぱりして気風がいいくせに好きな女の子には弱くウジウジしちゃう内弁慶な七島と、
常に淡々と冷静な佇まいの中に、時折わかりにくい情熱が顔を覗かせる本田。
キャラ的には七島の方が男子っぽく、マメで優しい本田は女子っぽい感じ。
二人の生活はお互いに足りないところを補い合いうまくいくように見えたが、少しずつ本田のねじれた情熱が二人の関係に影を落とし、やがて二人の生活に亀裂を生んでしまう。
本田がおもしろい。身近にいたら興味深過ぎて付きまとってしまいそう。友達になりたい(笑)
ひょんなことからレズビアンの性行為を見て「感銘を受け」た本田が、そこから色々学び、一生懸命女性相手に試してみるも「平板」「機械的」で「オス臭さがなく」「本当に求められている感じがしない」と散々な評価(笑) しかもそこで逆上したり落ち込んだりするのではなく「なぜそうなってしまうのか」「自分の性的志向とは」とまた淡々と考えちゃうんですね。マジメかっ!!(笑)
この作家の文章、すごく理知的で落ち着いているので、何が起きてもあまりこちらの心に波風が立たない。かといって面白くないわけではなく、粛々と語られていく物語には奇妙な引力があって、いつまで読んでいても飽きないような、不思議な読み心地でした。
他にも『右足の親指がペニスになってしまった女性の遍歴』を描き女流文学賞を受賞した『親指Pの修業時代』など、性をテーマに書かれている方のようで、Wikiによると『10代よりマルキ・ド・サドを愛読』って筋金入りですね(と、訳知り顔に言ってみる(笑))

二人とも好きになりました。ほかの作品も読んでみたいと思います~