「蝶」 皆川博子

流れるように美しい文体から匂い立つ妖しげな((時にグロテスクな)気配は、しかしあくまでも冷静(そこに狂気を内包していたとしても)な登場人物の佇まいと不思議な化学反応を起こし、読後心に残るのは独特の乾いた空気…

なんでしょう。耽美的ではあるのだけど湿度が低く、暗い話でも奇妙な明るさが全編を支配している。谷崎潤一郎的(ズブズブと底なし沼に沈み続ける湿度120%終着点は破滅です的)世界とは正反対な感じですが、しかし耽美度(?!)で言ったら私は皆川博子の方がうっとりしました。これは短編集なのですが、全てのお話がそれぞれ濃厚で味わい深く、一冊読み終えると脳みそがお腹いっぱいになります。(←なんじゃそりゃ) うーん…短編でこれだけの世界をこれだけの密度で描き出すというのは凄い…

一番好きだったのは「空の色さえ」
「空の色さえ陽気です、時は楽しい五月です。」
祖母が口ずさむ奇妙な歌を軸に、足の不自由な孫娘が語る祖母との日々。家族との日々。幽霊との日々。
足が不自由なせいで母親や姉達に疎まれ祖母の家で過ごす娘が、ある日家の中で現実には存在しない部屋を見つけ、現実には(今は)存在しない人と出会う。窓辺で一緒にあの歌を歌う二人を庭から見上げる祖母の周りには季節外れに咲き乱れる花々……耽美耽美…(←猟奇猟奇、みたいに言う)
所々に挿入されるその歌の歌詞(実在する詩だそうです)が静かな狂気を醸し出していて素敵です。

皆川博子、80代を過ぎて今なお現役で毎年のように作品を発表しているそうで、
しかもミステリも結構書いているらしい。これは読まねば。
ふふふ…楽しみな鉱脈をまた見つけてしまいました♪いやっほぅ~♪