甲子園が割れた日 -松井秀喜5連続敬遠の真実-

弟がリトルリーグから高校まで球児だったので、
我が家では昔から高校野球プロ野球は必ず観ていました。
自分では一切やらないのに、なぜか弟と一緒になって「月刊ジャイアンツ」を読んでた小学生の私(笑)
好きな選手は「絶好調男 中畑清」と「桑田真澄」(安易(笑))。 弟は原辰徳ファンだったな。そんでなぜか私に感化されて巨人ファンになった同じクラスの女の子は、篠塚利夫と山倉捕手のファン。ってなぜあなたが一番ツウっぽい人選!?(笑)

えーとなんの話だっけ、あそうそう。松井。
なので、あの有名な星陵vs明徳義塾の試合は鮮明に覚えているのです。
父はさすがに冷静で「まあこれも作戦だからな」とか言っていましたが
私と弟はテレビの前で「え!?また?!はっっ?!うそ全部っ?!」とか「おいこら明徳ぅーー!!」と大騒ぎ。ほんと悔しくて、納得がいかなくて、腹が立ったもんです。
そんで試合後の松井のインタビューですよ。
「相手の作戦ですから仕方ないです」的なことを静かに語る松井に、私と弟は口あんぐりのポカーンでしたね。ほんとあれは衝撃でした。敬遠されたことよりも、松井のおじさん、いや大人感に驚愕。

この本は、あの試合から15年を経た両チームの監督・メンバーへのインタビューによって綴られるノンフィクションです。彼らへの丹念な取材と筆者の冷静な視線からの解説により、両チームの当事者たちはそこまで深刻には捉えていなかった一つの試合が、それを取り巻くマスコミやその他モロモロのウゾウムゾウによってその後社会問題にまで膨れ上がり、戸惑いながらも巻き込まれ翻弄されていく選手たち・監督たち・・・という構図がとてもよく分かりました。
中でも驚いたのは、この事件で一番ダメージを受け、人生が狂ってしまったのは、松井でも相手の投手でもなく、松井の後続5番打者の星陵:月岩選手だったということ。そう、松井が全打席敬遠されるということは、毎回5番打者にはランナー付き、松井の代わりに打たなければいけないというとてつもないプレッシャー付きの打席が回ってくるということ。野球をよく知らないで松井にしか目が行ってなかった私にはほんと思いもよらないことでした。そしてその重圧にいつもの力を発揮できず全く打てなかった月岩選手は試合後から15年間、この試合については頑なに口をつぐみ、これが初めて受けた取材だったそうです。大阪の大学で続けるはずだった野球も、入学前の練習であの試合についての会話で先輩ともめてしまい、部活どころか入学自体を辞めてしまう。以降、野球からも当時のチームメイトからも遠ざかり、実家へ帰り就職。……うーん…重い…。重いなぁ…。

この本を読んで初めてこの試合を客観的に見ることができ、相手の監督の考えもわかり、勝負なのだから作戦としては間違っていない、というのは納得しました。したんですが、でも、それでも!出てくる両チームの選手がそれぞれこの試合によって悩み、苦しんできた様子や、彼らのその後の人生にこの経験が多かれ少なかれ影響(主に負の方向で)を与えてしまっているのを見ると、やはりこれは高校生達にはあまりにも酷だった、避けられるべき経験だったのではと結局は思ってしまいました。誰にも救えない状況でその経験をせざるを得なかった、とかならまだしも、大人たち(監督やマスコミ含め)の行動の結果ですからね……。うーん……

読み終わってもサブタイトルのような「真実」がすっきり現れて来たりはしません。むしろ色々な事実を知り、考えさせられ、モヤモヤします。お仕着せの筋書きや絵にかいたようなラストシーンで綺麗にまとまらない、考えても答えが出ない、これこそがノンフィクションなのでしょうね。いい本でした。