海賊と呼ばれた男とその周りの男たち

半年待ってやっと図書館の順番来ました「海賊と呼ばれた男」
これはいいっ!すごいっ!感動しました。
てっきりノンフィクションだと思って、国岡商店はいつ出光に名前を変えるのかしらなんて間抜けなことを思いながら読んでたんですが、これは出光の実話をもとにしたフィクションなんだって。でも大筋はノンフィクションらしい。(文中だと国岡鐡造の国岡商店→実際は出光佐三の出光商会)

出光佐三という人の経営理念・企業理念等、もちろん感銘を受けるところはたくさんあるんだけど、なんと言っても衝撃を受けたのは、戦後すぐの混乱した社会で、ほとんどの人が目先の利益や自分が食べていくことに必死な中で、佐三をはじめとした骨のある男たちの「日本の将来」を見据える視野の広さ、懐の広さ、胆の据わり方。通例はこう、とか規則ではこう、とかもし失敗したら自分はどうなる、とかそういうことではなく、その先のもっと大きなものを見据えて判断を下して動いていく彼らの姿は圧巻でした。

戦後日本へ参入してきた米巨大資本の石油会社数社が、GHQを利用しながら、今後もずっとアメリカの思うままに石油供給を操れるように日本の法整備を進めようとする中、佐三は彼らの目的を見抜き「そんなことを許したら日本の将来は無い!」と断固反対。
しかし日本の石油会社の多くは、目先の利益に目を奪われその海外資本と提携(というか吸収され)、日本の政府もGHQの言いなり。まさに出光は孤立無援・絶体絶命!どうなる出光?!そして日本!!(←いつのまに予告編風)

数々印象に残るシーン・言葉はありますが、(ありすぎて記憶がぼやけてますが(笑))このあたりで私が印象に残ったのは、この状況で空気に飲まれず正論を吐いた20代の若き官僚:人見孝。出光に石油販売の権利を与えないための条文とか、外資と提携しなければならないという条文まで制度に入れようする外資大手トップや官僚のお偉いさん達に対して毅然と「これは門戸開放の原則に反し、自由主義経済の原則にも反します」と発言。
更に外資におもねるように彼を説得しようとするお偉いさん(日本人ね)が「君の上司の大臣が何て言うかな?君の将来に傷がつかないかな?」と脅してくるのに対し「私の将来よりも、日本の将来を心配して頂きたい!私は原理原則を捻じ曲げることによって、将来の日本の石油産業に禍根を残すようなことはしたくない」とキッパリ。

……パチ、パチ、パチ、パチ、パチパチパチパチ!!うおおおおーー!!
(スタンディングオベーションってやつね)
すごい。ここでこう言える人がどれほどいるか。。。
私は…自信ないなぁ…
自分の仕事がそれで影響を受けるわけじゃないしーオレ役人だしー
こんなに偉い人達が居て、もうそういう話で進んでるんだしー、
まあ仕方ないか、、、とか。最低ですね。。。
目先の利益や周りの大勢に影響されることなく自分の目で見て、頭で考えて、意見を言い、実行する。当たり前のようだけど、簡単ではない。
頭で考えず馴れ合いのように過ごしている日常の中では、よほど強い意志を持たないと無意識に流されてしまうけど、少しでもできるように自分の中に意思を持たねば、と思いました。

ノンフィクションではないので、事実とは異なる部分もあるのかもしれないけど、信念を曲げず数々の苦難を乗り越えて行く男達の姿はかなり痛快・爽快で読後感も最高。いろいろ考えさせられるし、素晴らしい本です。

百田尚樹、いい仕事です(←偉そう)
小説家としては色々イマイチだと思っていますが、
やはり放送作家という特性なのか、史実を(うまく読者を惹きつける脚色をしつつ)読者に伝えるという役割では見事に大成功だと思います。